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INTERVIEW
2006.11.24 UP
子どもの頃に、どんなマンガやアニメーションに触れてきたか。親しんできたか。それが後々、アニメーションやマンガの普及に及ぼした影響は大きいはずだと、小野耕世さんは言います。いま世界で活躍するアートアニメーション作家も、小野さん自身も、優れた作品に出会って大人になりました。前号に引き続き、評論家小野耕世さんの登場です。

マンガを読んで叱られた記憶がない

僕は子どもの頃、身の回りに当然のようにマンガの本がいっぱいありました。普通の家庭だと、マンガを読むと大人は怒るけれど、僕の家は怒らない。親父は漫画家(註・小野佐世男)でしたから(笑)。そういう点では、自然にマンガに親しめた。通ってた成城学園の小学校も、マンガに対しては寛容でした。マンガを読んで叱られた記憶がない。だからおかげさまで、マンガに親しむ自分に後ろめたさみたいなものを持たずに済みました。僕の年齢では珍しいかもしれません。

父はアメリカのマンガなんかも買ってきてくれて、戦後すぐでしたけど、ミッキーマウスをカラーで見ました。文字は読めないけど、色がきれいでね。手塚治虫さんのマンガに夢中になり始めたのも小学校3年生くらいからですけど、同時にアメリカのマンガも見てたから、どちらに対しても違和感がなかったですね。

父と一緒に見たトムとジェリー

早くに亡くなったので、父と一緒に映画を見た思い出は少ないんですけれど、渋谷の映画館に行ったのをよく覚えてます。戦後すぐのころ、当時はアメリカ映画なんかと一緒にアニメの短編も上映してました。それで「トムとジェリー」を見たんです。忘れもしない『キャット・コンサート』(1947)という短編でした。邦題は『ピアノコンサート』だったかな。動きだけで台詞は一切なし。内容は、トムがピアノの演奏会をするんですが、弾いてるそばからジェリーが邪魔をする。最後にトムはもうくたくたになって、倒れちゃうんだけど、そこへすかさずジェリーが出てきて、颯爽と挨拶をして拍手喝采を受ける。とまあ、それだけなんですけど、これがすごい。ピアノを弾く手の動きとか、ちゃんとホントの音楽どおりになっているし、台詞はないのに全部伝わってくる。「トムとジェリー」のなかでも、僕は最高傑作だと思いますね。有名な作品ですよ。アカデミー賞も受賞しました。当時そんなことは何も知らない子どもの僕が見ても感激したし、父も「面白い、面白い」って言ってました。大人も子どもも楽しめるっていうのが、すごいですよね。娯楽であり、エンターテインメントである。

フェリックスはアバンギャルドな芸術

この初期のMGMの「トムとジェリー」シリーズ同様、いまのディズニーは全く評価しないけれど、本当に初期の頃のディズニーは別格だという作家はたくさんいます。サイレント映画の頃のミッキーマウスは芸術だという。つくってるほうはそんなつもりはなかったでしょうけど。エネルギーと訴える力がある。一生懸命なのが伝わってくる。いま見てもすごいですよ。

そしてそれ以上に、芸術なのは猫の「フェリックス」の初期のアニメ。あれはホントにアバンギャルド映画みたいです。僕がインタビューした世界で活躍するアニメーション作家たちは、ヨーロッパの人でも、ディズニー以前にフェリックスを見ている。フェリックスを見て感動したと。若いアニメ作家の中にも、ミッキーマウスはもちろん有名だけど、キャラクターとしてはフェリックスが好きだという人もいます。
 そういう作品に、子どもの頃に出会って親しんでいることが、後の仕事に影響を与えている。僕もその一人かもしれません。

子どものころに出会うということ

作家であり脚本家のピーター・キャリーが、息子を連れて日本に来たとき、「日本のアニメについて調べているので会いたい」と僕を訪ねてくれました。息子は10歳で、この子はアメリカで北野武の『菊次郎の夏』(1999)を見て、すっかり気に入っちゃったそうなんです。だから、本当はお父さんの仕事について来たんだけれど、気分はむしろ案内してきてるみたいな感じらしい。お父さんが僕にトンチンカンな質問したりするのを、隣でじーっと聞いている。ああこの子は、いまここに居ることの手応えというか、感触のようなものを確かに感じ取っているんだな、というのがよくわかりました。

『菊次郎の夏』を見たことで、彼は日本文化を知る入口を、知らないうちに通り抜けている。子どもの頃に出会う、というのはそういうことなんでしょう。そしてアニメやマンガや映像には、そういう可能性がいっぱいあるということ。その国に行ったことがなくても、すごく近く感じることができる。優れた作品にはその国のにおいや気配、背負ってきているものが、凝縮されているのです。

( 2006年9月 渋谷にて TEXT:佐野由佳 PHOTO:杉本青子 )
INTERVIEW:小野耕世 Part 1 / Part 2
Profile:
小野耕世 おのこうせい

映画・漫画評論家、作家。1939年東京生まれ。国際基督教大学教養学部人文学科卒業、NHKに入社。73年に退社ののち評論家として本格的に活動を開始。現在、国士舘大学21世紀アジア学部客員教授、日本マンガ学会理事もつとめる。
2006年第10回手塚治虫文化賞特別賞受賞。
この夏、世界のアートアニメーション作家15人を取材した「世界のアニメーション作家たち」(人文書院)を上梓。「マニアックなファンだけでなく、誰が読んでも楽しい本です。より多くの人にアニメーションの面白さを知ってもらいたい」とは小野さんの弁。
その他の著書に「アメリカン・コミックス大全」(晶文社)「中国のアニメーション」(平凡社)「シネランドへおいでよ」(講談社)ほか。訳書に、アート・スピーゲルマン「消えたタワーの影なかで」(岩波書店)マイクル・ファー「タンタンの冒険 その夢と現実」(サンライズライセンシングカンパニー)など多数。熱気球パイロットでもある。

小野耕世が選んだアート・アニメーションBest 24 (後半)
 

「TANAAMISM! 田名網敬一 DVD-BOX」


『ジョイ・ストリート』
「アスパラガス」所収
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