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INTERVIEW
ペドロ・コスタ
2008.11.8 UP
そんな食欲の秋に決まって関西圏のメディアに登場する方が「銀シャリ屋 ゲコ亭」の主人、村嶋孟さん(77歳)。大阪・堺でふだん着の似合うご飯屋さんを追求して45年。背筋を伸ばして毎日数十キロのお米をひとりで炊く主人は「ナニワの飯炊き名人」とも呼ばれる。しなやかで健康なその舌は、ご飯界のご意見番として、某炊飯器メーカーの開発にも活かされてきたとか。献立の原価率6割(通例は3割前後)という品質日本一の食堂に、「ここのご飯なら子たちが好き嫌いなく、食べるんです」と子連れで遠くから通うお客も少なくない。米の炊き方、産地偽装、事故米、賞味期限虚偽も含め、ネジがゆるんだ日本の外食事情を氏に伺った。 (聞き手:瀬戸山玄)

食の倫理

村嶋孟さん「どんな物でも、作り立ては美味しい。だから家庭料理もうまいんです。その点でいえば、デパート地下の総菜売り場は名店でもいただけません。鮮度が悪い。それでいえば、高級料理店の一式20万円もするようなおせち料理なんてどうなのでしょう。ひと月くらい前から製造し、冷凍しとくのですから、美味しいわけがありません。官庁などの接待が消えた今、そういう高級店の経営は厳しいのとちがいますか」
「食べ残しを再利用した船場吉兆さんは、スケープゴートにされたのでしょう。食の商売は合理的なことを考えたらなりたちません。高級料理店は器からして高価なものを惜しげもなく使い、コースを頼めば常人にはとても食べきれないほど、料理が次々とたくさん出てきます。それで仕方なく残す。そうやって残った手つかずの料理でしょ。だけど、人の残したものを客にまた出すというのは、出された側からすれば気色悪いです」
「売れ残りを冷蔵庫に入れたらどんな物でも味が落ちますよ。私自身は冷蔵庫というものをはなから信用しておりません。冷凍すると味が落ちるし、私は最新の冷凍技術も知識が欠如していますから、冷蔵庫はほとんど使いません。その日に作ったものを売り切るだけです」

新米が必ずしも美味しいとは……

「うちの米は45年間つきあいが続く、信用のおける米屋に任せてあり、銘柄と産地は季節ごとに変わる。たとえば9月中は、山形産の有機古米7割に三重県産の有機新米3割をブレンドして使う。特製のガス竃(かまど)で昔は一日60キロ炊いていたけれど、今は40キロくらい。新米が必ずしも美味しいとは限りませんよ。稲が育つ水田の水が良ければ、たしかに新米の香りはよいです。けれど低温保存を守り、炊く前日に精米して届けてもらう米の味も捨てがたい。そもそも新米は、その年に採れた米の12月末までの呼称に過ぎない。うちは店で炊く前日の夕方、精米したばかりの米を毎日届けて貰います」

飯炊きへのこだわり

「一釜三升分のコメを素早く4分間研ぎ、冬場は30分水にひたし、いったん水を切る(ここが肝心)。そして耐火レンガ製の竈で一気に炊き上げます。釜が吹き始めたら火を弱めて、蓋は決してとらない。炊きあがったらガスの火を止めて、こんどは隣の冷めた竈に釜を移し、熱気を抜いて蒸らします。重みで飯粒を潰さないように、ご飯を二つのサワラのお櫃(ひつ)に取り分けて、水分をほどよく飛ばしたら出来上がり」
「化学肥料で育てた米は舌触りがよくない。合成調味料ジャンクフードに慣れ親しんで、味覚のマヒしてしまった者には、私らのそうした飯炊きへの努力が何を意味するのかさえ理解しがたいのと違いますか」

村嶋孟さん

 ──ゲコ亭から200m足らずの所には茶人・千利休の住居跡が保存されており、お茶用に掘った有名な椿井戸も残る。実は同じ水脈がゲコ亭の地下23mを流れており、長年その井戸水で炊くご飯が主人の自慢だった。ところが近年、水質が悪くなって井戸水の使用を断念。現在はカキ殻と活性炭を沈めた瓶にため置いた水道水でご飯を炊く。

「最盛期は三升釜で日に十三杯炊いていました。その頃は面倒なのでご飯をお代わりする方からお代も頂きませんでした。普通の小さな釜だと、どうしても美味しく炊けませんし、お米もずっとキロ440円。化学肥料を使わない有機米は、やはり香りが立ちます」

 ──農水省のデータでは、米の購入者の26%がキロ当り300円未満の米を買う。その事実からしてもゲコ亭の米は品質が良い。ちなみに事故米を含め、WTOの多角的貿易交渉の末に無理やり買わされる外国産のミニマムアクセス米は、05年頃までキロ30円前後で取引された。だが食糧高騰でキロ125円まで上昇。それでも市販米に紛れ込ませば利ざやを稼げ、悪徳業者がその入札に群がった。つまり三笠フーズのような事故米の不正転売は暗黙の了解だったと見るべきだろう。

45年間、美味いご飯を提供し続ける

村嶋孟さん「正直な話、飲食店というビジネスは、最低3年は収入ナシでも食えるぐらいの余力がある人でないと、始めてはいけません。取引業者に信頼されてこそ開業時の料理の味も保てるし、あらゆる事態にも備えられるのです。開業3年以内の経験不足な店を、雑誌やグルメ番組がにぎやかに紹介するのもいかがなものかと思います」
「世界中を旅してみましたが、昼食のみで美味い店にはなぜか行き当たりません。私のところは夜やると居酒屋みたいになって、貸売りが増えるので原価率6割だとみ合いません。それで朝から昼までしかやらんのですが」


※注:用語解説としてウィキペディアにリンクを張っています。
有機→有機農業 ・新米→新米と古米 ・竃(かまど) ・肥料 ・合成調味料→化学調味料 ・ジャンクフード ・ミニマムアクセス

次号へ続く
(2008年9月 大阪・堺市「銀シャリ屋 ゲコ亭」にて TEXT & PHOTO:瀬戸山玄/ノンフィクション作家・写真家

*この店の物語は11月25日発売の雑誌『暮しの手帖』37号、「世のなか食のなか」に
詳しく紹介されます。 瀬戸山玄

INTERVIEW:村嶋 孟 Part 1 / Part 2

 

Profile:村嶋 孟
むらしまつとむ 
「銀シャリ屋 ゲコ亭」主人

1930年、大阪府堺市生まれ。木造豪邸を手入れする「アク洗い業」の親方だった父親は地元実業家らと深く親交を結んでいた。旧制堺中学を卒業後に関西圏の大学に進むが学業を断念して北海道に渡る。炭坑町美唄の建設会社で現場監督を勤めてから故郷にUターン。地元の紡績メーカーで働いた後、東京オリンピック前年の1963年、実家の一角でお好み焼き屋を開業。その半年後に「銀シャリ屋 ゲコ亭」にリニューアル。それから今日まで、ご飯の美味い店として、伝説的に半世紀近く繁盛しつづけている。

銀シャリ屋 ゲコ亭
大阪府堺市堺区新在家西1-1-30
時間:9:00〜13:30頃
休み:火曜、木曜/6〜8月


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