DVDの内容紹介
●猛暑が人を狂わせる
おおいぬ座のシリウスが天頂に輝く1年中で最も暑い日々(ドッグ・デイズ)、人々はそれぞれの欲望を解き放つ・・・ウィーン郊外の新興住宅地に暮らす一見「普通」の人々の内側に潜む狂気があぶり出される。離婚後も同居する元夫婦。妻は秘密のセックス・クラブに通い、夫は空っぽのプールでスカッシュをし続ける。銃を突き付けられ、ズボンをおろされた男が、オーストリア国歌を歌わされる。頑固者の老人が、家政婦の老婆のストリップを鑑賞する。ヒッチハイクを繰り返し、不快なおしゃべりと歌で人をいらだたせる女には、残酷な仕置きが住民たちによって科せられる。愛を求める孤独な心は、やがて嫉妬と怒りを爆発させ、性と暴力への欲望をはらんで疾走する。
●映画の地獄を見つめる揺るがない視線
『Animal Love』(95)、『Models』(99)などのドキュメンタリーで評価を得てきたウルリヒ・ザイドル監督が、その方法論を活かして長編劇映画に初挑戦した本作は、2001年度ヴェネチア国際映画祭で大反響を巻き起こし、同映画祭審査員特別大賞を受賞した。カオスと狂気を描き出すことで知られるドイツの巨匠、ヴェルナー・ヘルツォークは「私はザイドルほどには地獄の部分を直視していない」と驚嘆。人間性を、その負の部分も含めて徹底的に描き出したこの群像劇に対して、海外での上映時、観客の意見は賞賛と否定のまっぷたつに分かれた。映画の内容の過激さゆえに日本公開は一時危ぶまれたが、その強力な賞賛の声に押されて、ついに問題作『ドッグ・デイズ』がその姿をあらわす。
●文化の都、ウィーンに生まれた変態的作品
ウィーン・フィル、ウィーン・オペラ、少年合唱団、壮麗なバロック建築…。オーストリアの首都ウィーンは古くからヨーロッパ文化の中心地として栄えてきた。しかし、反面その文化的な伝統が重くのしかかっている都市とも言える。それゆえか、ウィーンはそれまでの価値観に対抗し、それを覆す過激な表現を生みだしてきた地でもある。その斬新さのあまり生前殆ど理解されなかったモーツァルト、19世紀末-20世紀初頭のギュスタフ・クリムトやエゴン・シーレ、現代音楽の祖アーノルド・シェーンベルク、20世紀半ばには過激な身体パフォーマンスを含む前衛美術運動ウィーン・アクショニズムのアーティストたちもこの都市から輩出された。現代の映画界では、やはり革新的な切り口、賛否を巻き起こす作風で知られる巨匠、ミヒャエル・ハネケ監督(『ファニー・ゲーム』、『ピアニスト』)があげられるだろう。ザイドル監督の過激さや『ドッグ・デイズ』に描かれる人々の狂気の原点にはそうした背景がある。この作品からはヨーロッパの文化が行きつく最果てが見えてくるはずだ。
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