DVDの内容紹介
●フィリピン・ルソン島北部のコルディリエラ地方。その険しい山岳地帯で暮らす人々は、厳しくも豊かな自然と#共生して生きていく知恵を今も生活の隅々に生かしています。「アボン/小さい家」は、そんな人々が住む村と、山岳都市バギオを舞台にしたある日系家族の物語です。あまり知られていないフィリピンの日系人、出稼ぎ外国人の事情、先住民山岳民族の暮らし、自然、宗教、文明…さまざまなキーワードが、「地球と人間の真の在り方を発見する」という主題を浮上させていくコメディータッチの詩情豊かな映画です。
この映画の監督である今泉光司は、小栗康平の助監督として「眠る男」や「死の棘」(カンヌ映画祭グランプリ作品)といった作品に携わってきた経験を持ち、さらにフィリピンの鬼才インディペント監督キドラック・タヒミックとの共同作業をはじめ、フィリピンの映画関係者との交流を深めてきました。96年に映画の舞台の一つであるバギオ市に生活の拠点を移して以来、多くの先住山岳民族の人々の暮らしに触れ、このシナリオの共同執筆者となったクリスティー・セグナケン(セントルイス大学講師・先住山岳民族)と共に、日本人と先住山岳民族の両方の視点から作られたシナリオを書き上げました。
フィリピンのリアルな現実と未来に向けた真摯なメッセージを含んだこのシナリオは、両国の多くの知識人をはじめ学者、映画関係者の賛同を得ることになりました。主演のジョエル・トレもそんな1人です。ジョエル・トレは、最近岩波ホールで上映された「ホセ・リサール」の中での熱演で、日本の観客に深い印象を与えたフィリピン映画界きって実力派俳優。そんな大物俳優たちと、地元のオーディションで選ばれた出演者、友情出演したフィリピンのアーティスト、地元の市長など、多様なキャストが織り成す物語は、フィリピンの地方都市と山村の予想外に美しい風景の中で、独特な厚みをこの映画に加えました。今、かつてなかったようなフィリピン-日本の協同製作作品が誕生しようとしています。
●日本人とフィリピン人の共同製作
この映画の特徴は、製作に関わっている人々の多様性です。シナリオ執筆から撮影にいたるまで、日本人、フィリピン北部の先住山岳民族の人々、マニラの中心に活動中の映画スタッフらそれぞれの得意技を生かしながら一丸となって映画製作に取り組んできました。異文化をバックグラウンドに持った人々同士の共同作業は、けっして簡単なことではなく、しばしば異文化摩擦の火花が飛び交う場面などもありますが、多様な人が関わるこのような作られ方から、独特のリアリティーと独創性のある作品となりました。
●ドキュメンタリータッチの劇映画
新聞、テレビ、雑誌などマスコミによって取り上げられるフィリピンは、「ジャパゆき」さん、フィリピンパブ、スラム、スモーキーマウンテン、政治的混乱といった一部の現象ばかりが強調され、それによって日本人のフィリピンイメージは、とても片寄ってしまいました。しかし、実際にフィリピンへ出かけた多くの日本人は、この国が、むしろ多様な文化と豊かな自然と様々なライフスタイルを持つ人々が暮らすとても奥行きの深い国だということを知り、今までのフィリピンイメージがごく一部の現象に過ぎなかったということに気付きます。
「アボン/小さい家」という映画が、映し出すフィリピンは、これまでのステレオタイプのフィリピンイメージではないので、日本人が勝手に考えだしたストーリーのように思えるかもしれません。しかし、実際にはフィリピン人キャスト自身が、むしろドキュメンタリーのようだと言うほど、この映画はリアルなフィリピンの生活の断片によって組み立てられています。そこには、貧しさと豊かさの混在した都市の生活、様々な宗教を信じる人々、ハイテクなライフスタイルが侵入しつつも伝統文化を守り自然に対して謙虚に生きる先住山岳民族、かつて日本からフィリピンへ出稼ぎ労働者として渡り、異国の地でカルチュラル・マイノリティーとしての辛酸をなめて来た日系人たちなどが登場します。
撮影は、フィリピン・バギオ市及びルソン島北部コルディリエラ山岳地帯の村々のオールロケーションで作られ、たくさんの地元の人々が、エキストラとして普段の生活をそのまま演じています。「アボン/小さい家」は、フィリピンの様々な風景と地元の人々とのコラボレーション作品ということが出来ます。
●NPO 法人「サルボン」の製作
映画は、文化的な側面が多分にありながら、経済優先社会の中で、極端に商業主義に傾きつつあります。特に多大な制作費のかかる映画製作は、常にビジネスとしての面が優先され、そのことが、より独自な視点で映画を製作したり、その時代に本当に必要なテーマを扱うような映画芸術の発展を妨げてきました。
「アボン/小さい家」を作っているのは、「サルボン」という非営利映像製作プロダクションです。「サルボン」は、地球環境と現代社会を反映した文化としての映画芸術の発展を目的に設立されたNPOで企画の目的に共感する個人や公私団体の参加・協力・支援を得ながら活動を進めようとしています。
巨大な資本の力で作られるメジャーな映画ばかりでなく、あるいはマスコミに注目された限られた人々の作品ばかりでなく、多様な視点から作られる良質な映画が生まれることは、製作する側だけではなく、上映する人々、鑑賞する人々にとっても共通な願いです。「アボン/小さい家」は、そのようなさまざまな人々の思いをつなぐことによって、作品の内容を豊かにし、完成・上映を目指しているのです。
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