DVDの内容紹介
● 高原のサナトリウムで静養する人、働く人、面会に訪れる人…。
静かな日常のさりげない会話の中にも、死は確実に存在する。
今、平田オリザが新たに見つめ直す「生と死」。
● 「S高原から」の初演は、1991年の秋だった。世の中はまだバブルの名残があり、私は、当時の小劇場界が、あまり描かないような世界、病や死を比較的正面から扱う作品を描こうと思ってこの作品を創った。’94年には再演を行い、初めての全国ツアーも敢行した。2003年春、フランス、ストラスブールの国立劇場が「S高原から」を制作、上演した。昨年の5月にはパリでも再演され、好評を博した。初演の時には、二十代の後半だった私たちが相当無理をして、背伸びをして創った作品のように感じていたのだが、なんだかフランス人が演じると、そのまま素直に観ることが出来て、自分の書いた作品なのに、不思議な感覚を味わった。昨年の冬には、ソウルでも、韓国の若手演出家と俳優たちによって「S高原から」が上演された。残念ながら、そちらは観に行けなかったのだけれど、期せずして、昨年は「S高原から」が三カ国で、それぞれの国の言葉で上演された。作家として、これほどの喜びはない。しかもこれほどに地味な作品で。わたしたちは、この再演にあたって、フランス人の演出家や俳優たちから、勇気をもらい、まったく新しい「S高原から」を創ろうと考えた。今回の再々演にあたっては、キャスト完全に一新して、ほぼ劇団の若手・中堅の俳優のみの構成になった。このような座組の本公演は初めてで、私自身新鮮な気持ちで稽古の時間を過ごした。そして、新しい舞台ができたと思っている。私たちは、この作品を持って、今後数年、世界中を回ることになる。長い旅が続く。 2005年7月 平田オリザ |