DVDの内容紹介
● 大地の母マリアとエリツィン大統領
二部構成のドキュメンタリーであるこの作品第一部はソクーロフの処女作。
その後「エレジー・シリーズ」として25本以上が制作されが、フョードル・シャリアピン(オペラ歌手)、タルコフスキー、ランズベルギス(リトアニア共和国大統領)、ボリス・エリツィン(ロシア共和国大統領)ら、主として有名人を取り上げられることになる。しかし、ソクーロフにとってこの無名の母マリア・セミョーノヴァは、ロシアを代表する存在として彼らとまったく等価なものとして描かれている。
● ロシアの母は働き者。男になんか任せておけない
列車が農村を横切って通り過ぎる。広大な平原で亜麻を栽培するヴェデニノ村の働き者の農婦マリア。八月の太陽がさんさんと輝く中、マリアたちは集団で働き、青空の下で一緒に食事をし、歌い、笑う。でも男たちといったら……。マリアの生き生きとした表情、物思いに沈む表情。馬にまたがって水浴びする子どもたちの情景など、あまりにもみずみずしいソクーロフの詩的な映像はそれだけでも感動的だ。
息子の突然の死にもめげず健気に生きるマリア。夫と娘タマーラとのクリミヤ半島でのやすらぎの休暇。
● 9年後、同じ村に向かったソクーロフを迎えた現実……
第二部の冒頭、車の窓から延々とぬかるんだ道や周りの民家を写し出す。この見事な長回しの撮影ははヴェンダースのロードムービー『アラバマ:2000光年』を想起させるが、それは第一部からの長い年月を表わすと同時にある種の不安な感情も呼び起こさせる。画面は一転してモノクロになる。再び村を訪れたソクーロフは村人たちに第1部を見せようと上映会を開くが、会場にマリアは姿を見せない。代わりに現われた娘タマーラから知らされたのは……。
●本当の家族とは、そして愛とは。マリアは私たちはたくさんのことを教えくれる
この映画はマリアのように村の人々にとても愛されていた。マリアの顔のアップがカラーで浮かび上がり、幸せな日々が甦る。第一部の断片がまるで運命の皮肉を強調するかのように、繰り返しフラッシュバックされる。雪に覆われた森、そこを通り過ぎてゆくトラック。教会の鐘の音や、鳥の泣き声。列車の窓から見えるモノクロの風景。憂いを帯びた哀悼の響きのなかで、マリアの教えてくれたひとつひとつが思い出される。
● 心を揺さぶる名曲の数々。感動の涙を誰もを押さえることはできない
全編に繰り返し流れる哀切なメロディは、19世紀、ミハイル・グリンカによる名曲「子守歌」。第二部冒頭の快活な音楽は、ロシアの現代作曲家アルフレード・シュニトケの「納税義務者名簿」。エスニックなリズムは、ロシアとポーランドの境に位置するベラルーシ(白ロシア)の民族音楽。そして、最後にカンツォーネ「マンマ」が流れる時、あなたはこの映画との出会いを一生の思い出にすることでしょう。
● この映画はロシアの農婦マリアの思い出に捧げられたレクイエムである。
ソクーロフは語る「マリアは生涯、亜麻を作って過ごした。彼女の人生には、農民のみが知る畑仕事の知恵が溢れていたことだろう。私はもう一度あの村に行き、続編を撮ってみたい。そのときの主人公はマリアの娘タマーラになるだろう」 |